なぜ本切羽にするの?ジャケット袖ボタンの加工や本切羽の魅力について
スーツやジャケットを購入した際、袖丈が長い場合や、ボタンの付いていないアンフィニッシュ(未処理)の状態の場合に、必ず必要になってくるのが、袖の直し。
長さだけでなく、ボタンをどのように付けるかがお洒落の鍵となります。
店員さんの言われるがままに直してしまうのも悪くは無いかもしれません。しかし、こだわりのスーツやジャケットを、自分のイメージしたものと違う感じで直されてしまうと寂しいですよね。
そこで、ここでは袖の仕上げ「本切羽」と、似ているけど異なる「開き見せ」についてご紹介します!
CONTENTS 目次
「本切羽」とは?良いジャケットの象徴?
「本切羽」とは、ジャケットの袖口に付いているボタンに、ボタンホールがあり、実際に開閉可能な仕様を指します。「本開き(ほんあき)」とも呼ばれます。また、このディテールは英語で一般的には「surgeon’s cuffs(外科医の意味)」や「ドクターカフ」などとも呼ばれます。お医者さんが腕まくりをして診療ができるようにしたのが由来と言われております。
しかし、実際にはお医者さんが腕まくりをすることは稀ですよね。ディテールの洗練さやこだわりの象徴として現在では使用されています。
さらに、本切羽は高級スーツを象徴するものとされることもあります。
しかし、イギリスのクラシカルなスーツでは、特に指定しなければ開き見せで仕上げられることもあり、「本切羽=高級」とは言い難いのかもしれません。
この「本切羽=高級」といった印象はなぜでしょうか?
元々イタリアのナポリで、英国の伝統的なスーツに対抗し、仕立て技術の誇示や英国との差別化のために本切羽を採用してきたことに関係しています。つまり、より高い技術やこだわりが必要とされる本切羽を、お金をかけて仕立てることで、「本切羽=高級スーツ」のイメージが一般に浸透しているとされています。
しかし、現在は手頃な価格のスーツにも採用されています。「本切羽=高級」ではなく、高級感やこだわりを演出する要素として愉しむものとなっています。
同じに見えて全くの別物「開き見せ」との違いは?
次に、本切羽と同じように見えて、異なる仕様「開き見せ」について。
「開き見せ」とは、スーツやジャケットの袖口において、ボタンは付いているけど、ボタンホールが実際には開かない仕様の事。つまり、見た目はボタンホールがあるように見せる仕様を指します。
この仕様は装飾的な要素として一般的であり、実際にボタンを外すことはできません。外見上のファッショナブルな外観を演出するために採用されています。既製のスーツやジャケットに多く見られる仕様です。本切羽に比べ手間や費用が掛からないこともあり、広く使用されています。
「本切羽」、「開き見せ」の細かいディテール
ボタンの数について
まず第一に、袖ボタンの数に正解はありません!お好みや状況に合わせて選べばよいと思います。
しかし、何事にもスタンダードを知っておくことは大切ですね。
一般的には、スーツやテーラードジャケットの袖ボタンは、3~4個がほとんど。困った時は4個にしておけば間違いないと思います。
アンフィニッシュの場合は、袖ボタンが付属していることがほとんどです。もし袖ボタンが9個付属している場合は、1つは予備として、各袖に4つずつ付けます。
また、カジュアルな雰囲気のジャケットは、1~2個などで仕上げる場合もあります。
「重ね付け」と「並び付け」
ボタンの付け方は大きく分けると「ボタンが接している」、「ボタンが重なっている」、「ボタンの間隔が開いている」の3タイプがございます。
中でも現在主流となっているのは、「ボタンが接している=並び付け」、「ボタンが重なっている=重ね付け」です。
「並び付け」は、袖ボタンがぎりぎり触れる程度に並び、きちんとした印象に仕上がります。
一番オーソドックスな仕上げになりまして、どんなジャケットでも違和感なく仕上げられる、汎用性の高い仕上げです。
次は「重ね付け」。
クラシコ系のスーツやジャケットを着る際はぜひお勧めしたいナポリこだわりの仕様。
1~2mm位ボタンを重ねて並べることで、立体的で美しい仕上がりになります。
しかし、冠婚葬祭などフォーマルなシーンでは不向きとされています。
本切羽にするメリットとデメリットは?
メリット
- 高級感とこだわりを感じる
元々がビスポーク(注文服)のスーツで使われる仕様の為、一回り高級感があります。同時に、玄人感のあるこなれた雰囲気を演出することができます。 - 実際に開け閉めできる
実際にボタンを外して、袖をまくる事ができます。作業や手洗い等、腕をまくれたらいいのにと思った事がある方は、本切羽が良いでしょう。また、あえて一つボタンを外したりといったこだわりのある着こなしを求める方にお勧めです。
デメリット
- 料金が割高になる
実際にボタンホールを開けるので、当然料金も高くなります。お店や仕様によって差はありますが、大体5,000円~8,000円位(袖丈詰めなし)の費用がかかります。
更に生地や仕立てによるチャージアップもあり得るので、作業前にお直し屋さんときちんとお話するのが良いでしょう。また納品まで時間がかかる場合もありますので、お急ぎの方は注意が必要です。 - サイズ補正が出来ない
袖口にボタンホールが開いているジャケットは、袖丈の長さ補正が困難です。なぜなら空いたボタンホールは移動できないから。
それでも長さ補正を行うなら、肩から詰める、あるいはバランスが悪くなる可能性を覚悟して、袖先から調整するかになります。
無理すればできないこともないですが、仕上がりが想像と違うといったこともあるので、あまりお勧めできません。
原則、一度本切羽にしたものは、長さ補正は難しいとお考えいただいた方が賢明です。
開き見せにするメリットは?
メリット
- 料金が抑えられ、納期が早い
おおよそ3,000円(袖丈詰めなし)位で修理が可能で、納期も本切羽より早いことが多いです。
手軽ですし、経済的にも負担が少ない仕様なので、「そこまでこだわらなくて良い」という方は空き見せがお勧めです。 - 長さ補正が可能
飾りのボタンホールとボタンで成形された空き見せは、ボタンを付けた後でも長さ補正が可能です。もし後々に誰かに譲る可能性があったり、最初のサイズ感に不安がある場合は、空き見せで仕上げるのが賢明です。ただし、飾りのボタンホールを解く際に、跡が残ってしまう場合もありますので、気になる方は注意が必要です。
デメリット
- 見た目が簡素
簡素な飾りのボタンホールになりますので、見た目で少々物足りなく感じる事があります。お直し屋さんによって差が出る部分で、ただステッチが入ったような質素な飾りボタンホールになってしまう事もあります。仕上がりを見てがっかりしない為にも、作業前に仕上がり後の見本を確認すると良いでしょう。 - 開ける事ができない
スーツの使用にあたってはそこまで問題ないと思いますが、ボタンを開閉することが出来ません。本切羽に慣れた方、袖をまくることがある方は、多少不便を感じる事があるかもしれません。
裏技?袖ボタンの一つだけが本切羽になっていない。
本切羽の隠された仕様に、面白いものがあります。
4つのボタンの内、最も肩に近いボタンホールに穴を開けない場合がございます。
つまり、袖先から3つは開閉できる状態。
実はこれ、イタリアに伝わる上質なジャケットを子供に受け継ぐことを目的とした仕様。裏技ではなくむしろ王道。
子供が自分より大きく成長した際、ジャケットの袖を出して、ボタンホールの開いていない一番上のボタンを外して、袖先に付け替えます。そして子供も使うことが出来るようにしたもの。
昔からこのような素晴らしい技術や考え方を、子供にも伝えているという環境が素晴らしいですよね。
さらに「本切羽」を愉しむ方法
最後に、「本切羽」、「開き見せ」をより自由に愉しんでいただけるよう、いくつか参考例を掲載させていただきます。実際にお客様が使用されていたお品になります。
ある程度のルールはございますが、その中で思いっきり愉しんで着用することが最も大切かと思います。